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東京地方裁判所 平成7年(ワ)2563号 判決 1995年10月27日

原告

永井伊三雄

右訴訟代理人弁護士

髙﨑一夫

被告

社団法人不動産保証協会

右代表者理事

野田卯一

右訴訟代理人弁護士

鈴木一郎

吉田瑞彦

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成五年三月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が、被告の社員である株式会社ティー・オー・エフ(以下、「ティー・オー・エフ」という。)と宅地建物取引業に関し取引をしたが、その取引によって生じた損害賠償債権を取得したので、被告に対し、宅地建物取引業法(以下、「法」という。)六四条の八第一項に基づき、営業保証金の範囲内における一〇〇〇万円の弁済をするように請求した事案である(遅延損害金については原告が還付請求をしたと主張する日の翌日以降支払済みまでを請求している。)

被告は原告の請求は法律の要件を欠く不適法なものであるとして却下を求めた。

二  争いのない事実等(特に摘示のない限り当事者間に争いがない。)

1  原告は、平成三年一〇月二五日、ティー・オー・エフとの間で別紙物件目録記載の土地を次の約定にて売り渡した(以下、「本件契約」という。)。(甲一、二、六、七)

代金 七億三一二一万円

違約損害金 売買代金の二〇パーセント

2  原告は、ティー・オー・エフに対し、平成四年一一月二五日代金残額七億二一二一万円の支払いを催告すると共に、右催告到達後七日以内に支払いのないときは本件契約を解除する旨意思表示した(甲一、二)。

3  原告は、ティー・オー・エフを被告として違約金請求事件の訴を提起し、平成五年五月三一日に東京地方裁判所において勝訴判決を受け、平成六年三月一四日に東京高等裁判所において控訴棄却の判決があり同年三月三〇日の経過をもって右判決は確定した。右訴訟において原告は、ティー・オー・エフから受領済みの手付金一〇〇〇万円を約定違約金から控除して右訴を提起したところ、原告は、損害の発生及びその金額を証明することなく右違約損害金の特約に基づき売買代金の二割に相当する金額の違約金債権が認められた(甲一、二)。

4  被告は、法六四条の二により、法六四条の三第一項各号に定める業務を行う者として建設大臣の指定を受けた宅地建物取引業保証協会である。ティー・オー・エフは、被告の社員である。

5  原告は、平成六年九月九日、被告に対し、原告とティー・オー・エフとの間の売買契約に基づく違約金請求権を原因として、法六四条の八に基づき、一〇〇〇万円を債権額とする認証申出をなした。

6  被告は原告に対し、平成六年一二月七日、原告の右申出債権の認証を拒否した。

三  争点

1  宅地建物取引業保証協会が法六四条の八第二項の認証を拒否した場合には、宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者は、その取引により生じた債権に関し直接宅地建物取引業保証協会に対して弁済業務保証金の支払いを請求することができるか。

2  原告の実損金額は一〇〇〇万円を越えているか。

3  被告の弁済業務の対象債権の範囲を定めた被告弁済業務規約において、宅地建物取引業保証協会の社員と、同社員と宅地建物取引業に関し取引をした者との間の特約による違約金で実損金額を超えるものを弁済業務の対象外としていることを理由として、被告は認証を拒否することができるか。

第三  判断

一1  法六四条の八第一項は、宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者は、その取引より生じた債権に関し、当該社員が社員でないとしたならばその者が供託すべき営業保証金の額に相当する額の範囲内において、当該宅地建物取引業保証協会が供託した弁済保証金について、弁済を受ける権利を有するとし、さらに同条第二項は、前項の権利を有する者がその権利を実行しようとするときは、同項の規定により弁済を受けることのできる額について当該宅地建物取引業保証協会の認証を受けなければならないとしている。

2  このように、宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者が、その取引により生じた債権に関し、債権者として権利を実行する方法は、弁済業務保証金の還付請求手続によるものとされており、しかもその権利を行使するためには、当該宅地建物取引業保証協会の認証を受けることが要件とされているのである。したがって、任意の認証を拒否された原告は被告に対し、まず、認証を請求すべきであって、同協会に対して直接弁済業務保証金の支払いを請求する権利は認められていない。原告の請求は法律上認められた権利の主張ではなく、棄却を免れない。

二  なお、その余の争点についても補足的に検討する。

1  原告は仲介業者に対する手数料・弁護士費用など一〇〇〇万円を上回る実損が生じているというが、実損金額が一〇〇〇万円を越えているかについては原告がすでに違約金に充当しているティー・オー・エフから得ている手付金額の一〇〇〇万円を超えているかについてはこれを認めるに足りる証拠はない(甲九に基づく支払いがなされているとまでは認められず、甲一〇はその作成日からみて因果関係のある損害と認定しがたい。)。

2  法六四条の八第一項によれば、宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者が弁済を受けることができるのは、「その取引により生じた債権」に関してであって、それ以上に弁済を受けることのできる権利の範囲は特段制限されていない。

また、法二五条一項によれば、宅地建物取引業者は、営業保証金を主たる事務所のもよりの供託所に供託しなければならず、同法二七条によれば、宅地建物取引業者と宅地建物取引業に関し取引をした者は、その取引により生じた債権に関し、宅地建物取引業者が供託した営業保証金について、その債権の弁済を受ける権利を有するものとされており、同人は、特約による違約金を含む自己の債権につき、供託金の還付を受けることができる。そして、弁済業務保証金制度はこの営業保証金制度に代替する制度であって、両者はいずれも宅地建物の取引に伴う事故が生じた場合に、消費者の被害をなるべく少なくすることを目的とする制度であるから、実損金額をこえる約定違約金の還付請求の許否につき両制度の結論が異なるのは不合理とも考えられる。

しかし他方、弁済業務保証金制度は、宅地建物取引業者に営業保証金の過重な負担を負わせることなく集団保証の方法によって消費者の保護を図りつつ不動産業界の社会的信用を高めることをも目的としており、法が宅地建物取引業保証協会に特に認証権限を与えているところから見ても、同協会がその規約により約定による実損金額を超える違約金が弁済保証業務の対象債権に含まれないとしていることにつき合理的な理由が認められるときは、同規約に基づき認証を拒否することも許されるというべきである。

そして、同協会がその規約において、実損金額を超える約定違約金を弁済業務の対象債権から除外することによって、宅地建物取引業保証協会が多数の業者を社員として擁し、社会的に一定程度の公的役割を果たすことが期待されている状況の下で、右のような各業者の負担軽減のための集団保証制度の健全な運営を維持し、かつ、実損に比べれば、実損の証明のない債権については消費者の保護の必要性は低いといえることも考慮した上で、被害者複数の場合の公平の実現を図っていると認められ、この目的のため右のような規約の定めをなし、これに基づき認証を拒否することに合理性が認められる。

従って、被告は、その規約に従って実損金額を超える約定違約金につき認証を拒否することができる。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官稻葉重子)

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